天国でまた会おう

コロナ禍、そしてウクライナ侵攻後による急激な燃料費等の高騰もあって、
ここのところ、あまり長距離のお出かけができていません。
本ブログは「お出かけブログ」という傾向がとても強かったのですが、
昨年あたりから、お出かけにまつわる記事がすっかり少なくなってしまって、
自分としても、忸怩たる思いがあります。
さほど遠くなくても、どこかに気晴らしに出かけたいものですね。

というわけで、今回もまた、ブックレビューを行ってみたいと思います。
今回は、ピエール・ルメートルの「天国でまた会おう」を取り上げてみます。
ルメートルはその女アレックスに代表されるように、ミステリーを書く作家、
というイメージがありますが、この天国でまた会おう、は、ミステリーではなく、
第一次大戦の終戦間際から、終戦一年後までのあいだのフランスを舞台にした、
いわゆる「時代小説」になるのかな、と思います。
しかもこの文庫は、ハヤカワ書房から出版されています。

この「天国でまた会おう」は、続く、「炎の色」へとバトンタッチし、
「我らが痛みの鏡」で、完結となるそうで、
その意味では、三部作ということになるのでしょうか。
で、とりあえず今回は、天国でまた会おう(上下二巻)を、ご紹介したいと思います。

本編の主人公は、アルベール・マイヤールという若者と、
その戦友でずば抜けた画才を持つエドゥアール・ペリクールです。
また、アルベールの上官アンリ・ドルネー・プラデル中尉、エドゥアールの姉、マドレーヌ、
そしてエドゥアールの富裕な父、マルセル・ペリクールを軸に、
物語が展開する構造となっています。

天国で〜の中身

さて、そのお話は……。
物語は1918年秋から始まります。
この頃、第一次大戦はまもなく終わる、という噂が、
戦場のあちこちで囁かれるようになっていました。
そんな状況下では、兵士の士気は上がりません。
もうすぐ終戦なのに、ここで戦死しては元も子もないからです。
こちらのフランス軍も、向こうのドイツ軍も、そんな厭戦気分の中で、
たがいに動きを見せず、ひたすら時が過ぎるのを待っている感がありました。

ところが、敵陣を探るべく斥候に出たフランス兵を、ドイツ兵が射殺。
ここから猛烈な戦闘が始まります。
フランス軍将校のドルーネプラデル中尉は、味方の兵士たちに突撃を命じます。
兵士アルベール・マイヤールもこの突撃に加わりました。
が、マイヤールは、その最中、敵弾に斃れた味方斥候兵の遺体を発見します。
その遺体は背中を撃たれていました。
斥候兵を射殺したのは、ドイツ兵ではなく、味方のフランス兵だったのです。
プラデル中尉は、戦争が続いているうちに武勲をたてようと、
味方斥候兵を手にかけたのです。

この事実に気づいた途端、アルベールは、突進していたプラデル中尉に、
砲弾でできた穴に突き落とされます。この穴からは容易に出られません。
プラデルはその場をさり、その付近に榴弾砲が着弾。
大量の土砂が巻き上げられ、アルベールの落ちた穴は埋まってしまいます。
窒息寸前のアルベールを救ったのは、戦友のエドゥアールでした。
が、直後、さらに砲弾が着弾。エドゥアールは顔の下半分を失う大怪我を負います。

アルベールは、命の恩人であるエドゥアールを献身的に看病します。
が、エドゥアールは、二目と見られない顔になったせいか、家に帰ることを断固拒否します。
アルベールは一計を案じ、死亡したフランス兵と、友人エドゥアールの身分を交換、
エドゥアールを死んだものとし、戦死したラヴィエールの身分をエドゥアールに与えます。

ふたりは、戦後の混乱するフランス社会の中で、肩を寄せ合って生きていきますが、
生活は困窮、もう、どうにもならなくなってしまいます。

そんななか、顔を失ったエドゥアールは、
社会を震撼させある、一大詐欺計画を思いつくのですが……。

ハヤカワ文庫背表紙

物語は、このアルベールとエドゥアールを中心軸としつつ、
いけすかないペテン師プラデルの成功と破滅と、
息子に対して屈折した愛情を持つペリクールの物語、そして
プラデルの妻となったペリクールの娘、マドレーヌのストーリーとを、
交互に、重層的に語るかたちで進展していきます。
なので、ちょっと群像劇的な印象があるという感じでしょうか。

ストーリーは、ルメートルらしくとても面白く、また、
極端なビビリ屋のアルベール、エキセントリックなエドゥアール、のコンビが、
とてもユーモラスに描かれていて、読み手を飽きさせません。
このあたりは、ルメートルらしさが出ているかもしれません。

また、エドゥアールの顔の怪我がいかにひどいのか、その様子や、皮膚の色、
吐息の匂いまで描写してあり、こうしたどこか猟奇的な表現も、
ルメートルらしいのかな、と、ふと思ってしまいました。

余談ですが、顔を失った男が別人になりすます、というくだりを読んだ日本の読者のかたは、
おそらく、100パーセント、横溝正史の「犬神家の一族」を思い出すのではないでしょうか。
私も、読んでいて、思わず、「スケキヨかよ」とつぶやいてしまいました。

互いに深い愛情を抱きつつも、激しく憎み反発しあう、
マルセルとエドゥアールの父子関係についても、読ませどころかと思います。

○ ハヤカワ文庫「天国でまた会おう」の情報はコチラへ ~

ただ、この小説は視点人物がよく変わる構造となっています。
マルセルが視点人物となるシーンなどでは、
ときに、娘のマドレーヌが視点人物なったりします。
それがこの場面の妙味となっているのですが、えてしてこうした多視点人物の小説は、
内容が散漫になってしまうようにも思います。

また、ストーリーにおいても、
アルベールが作品全体の主人公となって物語が進行していく体裁をとりながら、
最後のクライマックスに、そのアルベールが絡まないかたちとなっていて、
これもまた、物語の散漫感を出してしまっているのかな、と思います。

日本の小説の多くは、三人称一視点形式となっていて、
視点人物が変わる場合は、章やチャプターを変えて語る場合が多いのではないかと思います。
このほうがはるかに読みやすいと思うのですが、海外の翻訳小説は、
ひとつのシーンで他視点になってしまうことが、比較的多いように思います。
こういう方法はあまり褒められたものではないような気がするのですが……。

などといろいろ書きましたが、ハヤカワで翻訳出版されるだけあって、
作品としてはとても面白いと思いました。
次作の炎の色は、エドゥアールの姉、マドレーヌが主人公となるようです。
こちらもまた、さっそく読んでみたいと思っています。

あっ、そのまえに、どこかにお出かけに行きたいです!。


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そしてミランダを殺す

年が明け早くも一ヶ月が過ぎようとしています。
光熱費の高騰や食料品の値上げ、連続同等の頻発など、
年始から明るい話がまったくありませんが、本ブログは、今年もマイペースで、
のんびり綴っていきたいと思っています。
というわけで、今回はここ最近多くなりつつある読書ネタをいきたいと思います。
取り上げるのは、創元推理文庫、ピーター・スワンソンの「そしてミランダを殺す」です。
昨年、スワンソンの「アリスが語らないことは」を取り上げてみましたが、
そしてミランダを殺す、は、そのアリスよりも前に書かれた作品です。
本作の出版は2018年だそうですが、スワンソンといえば、
この、そしてミランダを殺す、のほうが、アリス〜よりも有名ではないかと思います。

本作は、アリス~との共通点がとても多くあります。
まず物語の舞台として、アリスにも登場した『ケネウイック』がでてきます。
この街は、アメリカのニューイングランド地方にある小さな海沿いの街です。
(この街は架空で、実在はしないそうです)

アリス~では、このケネウイックの街の様子が、とても詳しく書かれていました。
ちょっとさみしげな雰囲気を持つ海辺の風景、空の色や海の光景、などが、
とてもリアルに、目に浮かぶように書かれています。
海沿いの遊歩道の描写は、とても印象的です。
また、現在と過去が交錯しつつ、物語が展開して行くところも、
アリス~とかなり似通っています。

創元推理文庫

さて、その物語ですが……。
ロンドン、ヒースロー空港のラウンジで、
テッド・セヴァーソンは、若い女性と知り合います。
若くして巨万の富を築いたテッドですが、このとき、心中は穏やかではありませんでした。
というのも、愛する妻ミランダの浮気を知ったからです。

デッドは、酔いも手伝ってか、たまたま知り合った女に、
妻が浮気していることを打ち明けます。
普段なら、他愛もない世間話で終わるところですが、
話を聞いた女は、テッドに深く同情し、浮気妻に復讐してはどうかと持ちかけます。

ふたりはともに同じ飛行機でアメリカへと帰りますが、
女は、テッドに、もしミランダに復讐するのであれば私は全面的に協力する、と、
宣言します。
もっとも、その復讐とは、妻を殺すことであり、完全な犯罪行為です。
が、女は、見知らぬテッドのために、危ない橋を渡るというのです。
女には、完全犯罪を行うだけの頭脳と度胸があるようです。
こうして彼女は、決心が固まったらまた会いましょう、とテッドに告げます。

結局、テッドは、リリーという名のその女と再会し、
妻ミランダを殺害する計画を立てていきます。
やがてテッドは、妻に復讐することよりも、リリーへと強く惹かれていきます。
ところが、予想もしなかった事態に、テッドは遭遇するのです……。

ミランダ〜ページ中身

空港で知り合った女に、妻の浮気を打ち明け、そのあと、
妻殺害の犯罪計画まで練るなんて、ずいぶん乱暴で陳腐な展開、とも思えますが、
そのあたりは、深く傷つき、捨て鉢な気持ちでいるテッドの心情を描写することで、
自然な展開に見せています。
妻への憎しみが募るほど、テッドは、リリーの凜とした姿勢に、
気高さのようなものを感じ、さらに惹かれていくのです。
そういうテッドの心情はよくわかります。

リリーは、細身で知的で美しい女です。
が、どこか心が壊れています。
彼女がどうしてそうなってしまったのかは、リリーが一人称になって語る過去のシーンで、
しだいに明かされていきます。

背表紙

こうして、物語は、テッド、リリー、ミランダ、
そしてキンボールという刑事の独白によって語られていきます。

物語の展開はゆっくりとしていますが、途中、思いもよらない展開があったりと
とても楽しめます。
男性読者であれば、リリーという魅惑的な女性について、あれこれと想像することでしょう。
こんな人に、ラウンジで声をかけられたとしたら……。
テッドでなくとも、もう完全にメロメロですよね。
こうした、謎めいた美女が登場するところが、スワンソン作品の大きな魅力だと思います。

○ そしてミランダを殺す。創元推理文庫の情報はコチラヘ ~

翻訳物の小説は、お値段がちょっと高めなのですが、
読んでみると、やっぱりおもしろいですね。
スワンソンは、ほんのつい最近、だからダスティンは死んだ、という新刊が、
創元推理文庫から発売されました。
こちらもまた、読んでみたいと思っています。
といっても、ケイトが恐れるすべて、を読むほうが先かな……。
そうそう、そういえば、劉慈欣の『三体O 球状閃電』も発売になっていますね。
こちらは、あの三体の前日譚らしいです。

『三体X 観想之空』も出ていますが、こちらは劉慈欣作ではないところが、
ちょっとひっかかって、いまだ読まずにいますが、『三体O』については
もう、ゲットしてしまいました。
(ハードカバーは高いので、以前もらった商品券を使って買いました)

物価高騰で使えるお金が目減りする中でも、
読みたい本はいっぱいあって、本当に困ってしまいますね。
せめて本だけは値上がりしませんように!。


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プロジェクト・ヘイルメアリー

ヨメがコロナに感染して、一週間余りが経過しましたが、
おかげさまで、ヨメの症状は、発熱を除き、さほど重い状態にはなっていません。
私も濃厚接触者ということで、おそらくは感染しているようはずですが、
発熱についてはまったくなく、顕著な体調不良はないままです。
そんな状態なので、わずかでも発熱があったら発熱外来に行く予定をしていたのですが、
そのきっかけもつかめないままとなっています。
もしかしたら、感染していない可能性も捨て切れません。
ただ、喉に違和感があるので、感染していないとはいいきれないような……。
私は三ヶ月前に、コロナ三回目のワクチン接種を受けていますが、
そのさいは、モデルナを受けました。
ファイザー製のワクチンを打った時は、なんの副作用もありませんでしたが、
モデルナを接種した時は、その翌日から重い副反応が出て、非常に辛い思いをしました。
ですが、いま思えば、この3回目モデルナが、効果を発揮しているのかもしれません。
いずれにしても、思うように外出もできませんので、
今回もまた、ブックレビューネタで、いってみたいと思います。
取り上げるのは、アンディ・ウィアーの『プロジェクト・ヘイル・メアリー』です。

早川ハードカバー

この本を最初に見かけたのは、岐阜市の丸善(マーサ21内)でした。
そのときから心惹かれていたのですが、三体の全巻読破でけっこう出費してしまったため、
ヘイル・メアリーは、読みたいと思いつつも、しばらく眺めるだけでした。
なにしろ、ハードカバーは高いですから
とはいえ、Amazonなどで、ヘイル・メアリーが高評価を受けているのを見ると、
やっぱり、読みたくなってしまいまして……。
というわけで、ついに先日、物欲に負けて、
プロジェクト・ヘイル・メアリー上下二巻を、ゲットしてしまいました。
(まだ未読ですが、ヘイルメアリーを買う前に、ピエール・ルメートルの
天国でまた会おう、も買っていますので、ここ最近の私は、
ハヤカワ書房に多大の貢献をしています)

アンディ・ウィアーは『火星の人』というSF小説で有名な作家です。
この作品は、マット・デイモン主演で映画化され、大きなヒットとなりました。
邦題は『オデッセイ』という名になってしまいましたが、
火星に残された宇宙飛行士のサバイバルを描いたこの作品を、
ご覧になった方も多いのではないかと思います。

今回のヘイル・メアリーも、この火星の人と同様、
宇宙船内にひとり生き残った主人公の、現在と過去を織り交ぜた物語となっていて、
そのあたりは、火星の人とちょっと似ている感じもあります。

ヘイルメアリー文面

その物語は……。
物語の主人公『ぼく』は、円筒形の部屋で目覚めます。
しかし、自分が誰か思い出せず、また室内には、ふたつの遺体があります。
死後、相当な時間が経過しているのか、遺体はすでにミイラ化していました。
主人公が目覚めた部屋の上には、同じ大きさの部屋があり、
なにかの研究室なのか、さまざまな実験用機材で埋め尽くされています。
やがて、断片的に主人公の記憶が蘇ってきます。

主人公はライランド・グレースという、中学校教師でした。
かつては学者でしたが、宇宙の生命体に関する論文を発表したのを最後に、
アカデミックの世界と縁を切り、教員として生きがいのある日々を過ごしています。
そんな彼の元に、ある日、四十代半ばと思しき女性がやってきます。
彼女は、グレースがかつて発表した論文に注目しており、
金星から回収した微生物の調査研究をグレースに要請します。

この微生物は、太陽から金星に伸びる赤外線帯に含まれていたものです。
この生物は赤外線を放射しており、その輝度が増すごとに太陽の光度が減少しているのです。
その現象は指数関数的に増えており、太陽はやがて10パーセントほど暗くなるというのです。
もし太陽がそれだけ暗くなれば、地球生物はことごとく死滅します。
グレースは、この微生物が太陽のエネルギーを質量に変えて蓄えていること、や
金星の二酸化炭素を使って増殖していることを、突き止めます。
しかも、地球近隣の恒星は、ことごとく、この微生物「アストロファージ」に感染し、
のきなみ、光度を減少させていることも判明します。
ところが、感染域の中心に位置する『くじら座タウ星』だけは、
どういうわけか、感染を免れている、らしいのです。

どうやら、グレースは、光量をダウンさせた太陽を救うために、
宇宙船に乗ってタウ星系の調査にやってきたらしいのです。
そしてグレースは、タウ星の調査を始めるのですが、
そこで、思いもよらない未曾有の事態に遭遇するのです。

ヘイルメアリー背表紙

このように、物語は、記憶を失ったぼくと、
回想というかたちで語られるぼくの過去との、ふたつの視点によって進行していきます。
(どちらも同じ人物ですが、2視点になっている感じです)

科学的な説明、宇宙船の構造の説明、などがとても丹念になされていて、
読んでいて、シーンがありありと浮かんできます。
小説ですが、まるでハリウッド映画を見ているような感じです。
サバイバルものでもあり、またバディものでもあって、とても楽しますし、
なによりも、物語の構成がとても見事です。
しかも、ストーリー展開のテンポがよく、おもしろさにグングン引き込まれていきます。
極上のエンターテインメントです。

○ プロジェクト・ヘイル・メアリー アンディ・ウィアー著 ハヤカワ書房 ~

ですが、主人公グレースの描写は、ちょっと軽いというか、一面的な気もします。
主人公は三十代の男ですが、そうであれば、一定の人生経験を持っていそうなものです。
ですが、グレースの、交友関係、恋愛観、人となり、については、
さほど書かれておらず、上下二巻の小説としては、物足りなく淡白な気もしました。
(こうした面においても、よくも悪くもハリウッド映画的な気がしました)

Amazonの広告のなかには「三体の次はコレ」みたいなキャッチコピーがありますが、
私としては、やっぱり、断然『三体』推しです。

ヘイルメアリー上下二巻

ちなみに、先日、本屋さんの店頭で『三体X』なるハードカバーを発見。
これは劉慈欣氏の手になるものではなく、別の作家が書いた、二次創作小説です。
そういえば、この二次小説の話は、三体の後書きにも書いてありましたね。

原作『三体 III 死神永世』で、語られることのなかった、
雲天明(ユン・ティエンミン)とアイAAの話なのだそうです。
これは気になる。
でも、劉慈欣作ではないってところが、けっこうひっかかりはするのですが、
やっぱり、強烈に読みたくなってしまいますよね。

でも『同志、少女よ敵を撃て』も、読みたいですし、かといってハードカバーは高いしで、
いろいろと悩ましいです。
(それにしても、みんなハヤカワですね……)

ただ、コロナの急拡大で、これからもお出かけの機会は遠のきそうですので、
本ブログでも、今後は、読書系の話題が多くなりそうな感じです。



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アリスが語らないことは

お盆を過ぎて、酷暑も少し一段落した感があります。
今年は梅雨明けが早かったものの、その後も、なにかとぐずついた天気が多く、
これでほんとうに梅雨明けしたのかと何度も思ったものです。
しかも、各地で、大雨の被害が続出し、驚きもしました。
なんだか、梅雨が八月までずれ込んだような印象です。

我が家では大雨の被害こそなかったものの、ついにというべきか、
ヨメがコロナになってしまい、その後は、なにかと不便な生活をしています。
いまのところ私には顕著な症状はないのですが、
夫婦ともに生活していますので、感染、罹患のリスクは非常に高いかと思います。
もし、発熱があるようだったら、速やかに発熱外来にいかなくてはと思っていますが、
いまのところは大丈夫なようで………。
今後も症状が出ないことを祈るばかりです。

そんなわけで、なかなか外に出るのもままなりませんので、今回もまた、
ブックレビューでしのぎたいと思います。
今回取り上げるのは、ピーター・スワンソンの「アリスが語らないことは」です。
この本、だいぶ前に読んだのですが、ブログネタに困っているということもあり、
急遽、取り上げることにしました。

ピーター・スワンソンはアメリカの作家だそうで、
まださほど作品が多くない作家のようです。
そしてミランダを殺す、という作品が有名なようですが、
私はこのアリスが語らないことは、を、最初に読むこととなりました。

創元文庫背表紙

さて、その物語ですが、
大学を卒業したばかりの若者「ハリー・アッカーソン」を視点人物とする現代と、
アル中の母と、継父とクラス「アリス・モス」を視点とする過去との、
ふたつの時間軸が同時進行する形で、進んでいきます。

大学生のハリーは、大学の卒業式を間近に控えたある日、
父が遺体となって発見されたと知らされます。
知らせてきたのは、父の再婚相手、アリスでした。
すぐさまハリーは、故郷であるアメリカ東海岸の小さな町「ケネウィック」に帰り、
悲しみに暮れる後妻、アリスと対面します。
ハリーの父ビルは、稀覯本を扱う書店を経営しており、
その2号店を、ここケネウィックに出していました。
ビルの最初の妻、すなわちハリーの母は、癌で他界。
その後、ビルは、十五歳年下のアリスと再婚し、ケネウィックに住んでいました。
ハリーから見て、アリスは十五歳年上です。
が、美しいアリスに、ハリーは否応もなく性的な妄想を抱いていきます。
そんなある日、家を訪ねてきた警察官が、父ビルの死因には不審な点があり、
他殺の可能性があるとハリーに告げるのです。

この物語と並行して、過去の物語も進んでいきます。
職場のボイラー爆発事故により多額の保証金を得たアリスの母イーディスは、
一人娘のアリスを連れ、アメリカ東海岸のケネウィックに引っ越してきます。
ある日は、イーディスは、娘のアリスに、ある男性を紹介します。
その男は、ジェイク・リクターという、ハンサムでリッチな銀行マンでした。
やがて、イーディスとジェイクは結婚するのですが、
アリスは次第に、継父のジェイクに心を惹かれていきます。
一方のジェイクも、アル中であるイーディスを見捨てることなく結婚生活を続けるのですが、
ジェイクの本当の狙いは、美少女のアリスでした。

アリスが語らないことは文面

物語の進展は非常にゆっくりとしています。
トリッキーな展開や、奇想天外なアイデア、唸るような綿密なプロット、などはありません。
ハラハラドキドキ、という要素もほとんどなく、物語は、静かに、淡々と進んでいきます。
そのかわり、ケネウィックという架空の町の描写が、とても念入りにされています。
本作を読んでいると、少し寂しげで、それでいて風光明媚な東海岸の町ケネウィックが、
ありありと目に浮かんできます。
私は、ケネウィックは実在の町かと思ったほどです。

本作のもう一つの魅力は、アリス・アッカーソン(アリス・モス)の描写です。
エロティックで、謎めいていて、まるでつかみどころない女性であるアリス。
父の再婚相手であるこの女性をまえにしたハリーの煩悶が、
現代の物語の中で、際立った描写となっています。

○ 東京創元社 アリスが語らないことは ピーター・スワンソン ~

過去に物語では、思春期のアリスの視点で描かれていて、
アリスが社会や世界、自分を取り巻く人間ををどう捉えているかが、
理解できるようになっています。

ハリーが感じるアリスの美しさと、
ジェイクの視点から見たアリスの美しさの差のようなものも、興味深いです。

創元文庫裏側

この作品はミステリーで、連続殺人を扱っていますが、
静かで淡々とした展開と、町の描写が魅力かなと思います。
読んでいると、ビルとアリスが住んでいた「グレイレディ」という屋敷が、
ありありと目に浮かんできます。
ただ、帯にあるような、とてつもない衝撃、という感じではないかなと思います。
(最近の本の帯は、やたらと大げさな表現が多いように思います)

以前に読んだ、ピエール・ルメートルの「監禁面接」のような、
痛烈な面白さはないのですが、この作家なりの魅力が溢れた作品なのかなと思います。
創元推理文庫はお値段がちょっと高めなのですが、今度は、
そしてミランダを殺す、を読んでみたいな思っています。
(読みたいものがいっぱいで、困ってしまいます)


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文春文庫「監禁面接」

今年は異様に梅雨明け宣言が早かったのですが、
どういうわけか、ここのところずっと雨で、なんだかまた梅雨に入ったような感じです。
しかも、この時期、またしても、コロナが蔓延し始ているようで、
ワクチンを三回摂取した身でありながらも、なんだか心配になってしまいます。
ちなみに、このワクチンについてですが、私は、前二回はファイザーを、
最後の一回をモデルナにしたのですが、
(なにしろ、モデルナを選択するととても早く接種が受けられるので)
そうしたら、もう、身体がだるいし寒気はするしで、たいへんでした。
ファイザーの時はなんの副反応もなかったんですけど。
ですので、この先おそらく、四回目の接種という話も出てくるのではないかと思いますが、
また副反応が出たらどうしよう、と怖気をふるっています。
それにしても、コロナって、なかなか収束しませんね。
この調子だと、完全にもとの生活に戻れるのは、2025年くらいかな、などと、
勝手に想定したりします。

監禁面接

さて、今回は、ふたたび本のレビューをいってみたいと思います。
今回取り上げるのは、ピエール・ルメートルの「監禁面接」です。
じつは、この作品を読了したのは、すでに二ヶ月くらい前のことなのですが、
非常に面白かったので、今回、レビューとして、取り上げることとなりました。

ピエール・ルメートルの作品を読むのは、今回で6冊目です。
いままで、悲しみのイレーヌ、その女アレックス、傷だらけのカミーユ、
の、ヴェルーヴェン警部三部作と、
我が母なるロージー(これもヴェルーヴェン警部がでてきますが、番外編的な感じです)
そして、死のドレスに花婿に、と、読み進めてきました。
このなかで、いちばん出来がよかったのは、やはりその女アレックスでしょうか。
しかし、今回の監禁面接も、その女~に匹敵するほどの、おもしろさでした。
(今回もまた、キャラクターの妙味が効いています)

物語は、一人称形式で語られます。
そのまえ、そのとき、そのあと、という三部構成になっていて、
そのまえ、の語り部が、俺ことアラン・デランブルです。
そのとき、の語り部は、ダヴィッド・フォンタナという男の目を通して書かれています。
そして最後の、そのあと、は、ふたたびアラン・デランブルが語り部を務めます。

文庫裏側

その物語ですが……。
主人公は57歳のアラン・デランブルという男です。
失業して四年目となり、
現在、医薬品の発送を行うサージュリーという会社で働いていますが、
トルコ人上司のペリヴァンとトラブルになり、カッとなって暴力を振るってしまいます。
アランは、サージュリーを追われ、さらには訴えられることになってしまいます。
ところが、57歳のアランには再就職先などありません。
訴えられても、払える金もありません。

そんな折、著名な人事コンサルティング会社BLCから、アランのもとに手紙が届きます。
じつは、アランは、BLCが募集したトップ企業の人事副部長募集に、応募していたのです。
しかし、いったいどんな企業が、BLCのクライアントなのかわからないため、
トップ企業の人事副部長というのも、どこの会社なのかはわかりません。
ただ、試験にパスすれば、このトップ企業に高待遇で再就職できるのです。
アランは筆記試験に挑み、この試験に人生を賭けようとします。

が、BLCは、恐ろしい構想を持っていました。
クライアント企業は、サルクヴィルという場所にある大型工場の閉鎖と、
それにともなう大量馘首を計画していました。
その難しい仕事を任せるため、社内の誰に選んだらいいか、BLCに相談していたのです。
BLCのラコステ社長は、候補となる重役を一箇所に集め、そこに偽のテロリストを送り込んで、
全員を拘束し、この特殊なストレス下のもと、それぞれの重役の資質を図ろうという、
仰天アイデアをクライアント企業に提案します。
その資質を図るための要員を選抜し、すぐれた功績を残した者を、クライアント企業は、
人事副部長として雇う、というのです。
そんなことなどつゆ知らないアランは、並み居るライバルを抑え、面接試験へと進みます。
その会場で、アランは、BLCがテロリストを使った重役監禁テストと、
テストの進行役から、人事副部長が選出されることを知らされます。

アランは、とんでもないテストだと思いつつも、愛する妻の娘のため、
この、テロリストを使った監禁面接の進行役に、挑むのですが……。

梗概部分

とにかく、奇想天外なストーリーなのですが、なによりも読者を引き込ませるのは、
アランのキャラクターです。
アランはどこかユーモラスで、憎めません。
妻ニコルをとても愛していることも、読者の共感を大いに呼ぶところです。
このアランの行動に、読む側は、ハラハラさせられます。
アラン!、なにをやらかすんだ、と、思ってしまいます。

監禁面接の中面

また、ニコルや、二人の娘のキャラクターの書き分けも秀逸です。
マチルドとリュシーのふたりの娘の性格の違いなども、うまく描かれているなと感心します。
その女アレックスよりもボリュームがありますが、あっという間に読んでしまえます。

○ 文春文庫 ピエール・ルメートル『監禁面接』の情報はコチラ ~

それにしても、海外翻訳の秀逸なミステリーを読むと、
ほんとうに、打ちのめされる思いがします。

ピエール・ルメートルは、デビューが遅かった作家ですので、
それほど作品数が多いわけではありません。
ミステリーは、残すところ、僕が死んだあの森、しかありません。
ですが、そのほかに、第一次大戦から第二次大戦に至るまでの期間を描いた、
時代小説がありますので、今後は、そちらを読み進めてみたいと思います。

監禁面接背表紙

ルメートルのことなので、きっと一筋縄ではないかない物語なのでは、と思いますが、
読了したら、いずれまた、このブログで、ご紹介したいと思います。



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