石田徹也展リーフレット/表

今回もまた、前回、前々回と同様に、
美術館、美術展の話題になってしまいますが、
先週末、富山県の砺波市美術館で開かれている、
『石田徹也展 - ノート、夢のしるし』を、見学/鑑賞に行ってきました。

石田徹也氏は、風刺画的な要素を持ちつつ、
かつまた、シュールレアリズム的な作風を持つ画家で、
私も、かねてから、書店などで氏の作品集などを見て、
いたく興味を惹かれていました。
今回、この石田氏の作品展が、隣県で開かれていることを知り、
さっそく出かけてみた、という次第です。

富山県の美術館といえば、富山市美術館、高岡市美術館がすぐに思い付くのですが、
砺波にも美術館があるということを、私はまったく知りませんでした。
というわけで、砺波市美術館に行くのは、今回がはじめてのこととなりました。

美術館までは二時間半ほどで到着。
場所はチューリップ公園のすぐそばでした。
砺波市はチューリップがとても有名で、
毎年、春に行われるというチューリップフェアのさいには、
この公園周辺は、たいへんな賑わいになるかと思われます。

砺波市美術館

こちらが、砺波市美術館の全景です。
とても重厚で立派な建物ですネ。
砺波市はそれほど大きな街ではないのですが、
このような立派な美術館があることに、ちょっと驚いてしまいました。

石田徹也展

というわけで、さっそく、館内に入り、
石田徹也展をじっくり見ていくことにしました。

展示は、石田氏の制作年によって分類されていて、それぞれに、
作風やスタイルの違いを見いだすことができます。

● 富山県 - 砺波市美術館のサイトはコチラ

ごく初期の作品では、風刺やメッセージ性は強くなく、
広告ビジュアルとしてのイラストレーションといったスタイルとなっています。
実際、石田氏は、武蔵野美術大学の視覚伝達デザイン学科を出ており、
グラフィックデザイン、イラストレーションといった分野には、
精通していたものと思われます。
また、この時期にすでに、後の氏の代表作となる「飛べなくなった人」に繋がる、
飛行機の遊具、というモチーフが登場しており、
とても興味深いものがありました。
ただ、初期作品の飛行機は「飛べなくなった人」のような、
メッセージ性といったものはほとんどなく、
酔ったサラリーマンが二次会に出かけようと街を徘徊する、
というような、イメージ的にもとても明るいものでした。

その次の時代の作品は、風刺性や、自己の内的表現という傾向がグッと強くなり、
石田徹也氏らしさを感じさせるものとなっていました。
前出の「飛べなくなった人」も、この時期の作品に分類されており、
うつろで虚無的な表情を浮かべた人物に、
飛行機の遊具、船、椅子、便器、などを組み合わせ、
独特の世界観を構築しています。
そのどれもに、閉塞感や拘束感、抑圧感といった感触があるのですが、
一方で、どことなく、ユーモラスでもあります。

また、登場人物や背景の一部を、画面の端に相似形状態で描き入れて、
画面外にも一定の連続性があることを暗示する作品も多くあり、
閉塞の連鎖のような、出口のないループに入ったような感覚を覚えさせられました。

錆びた鉄、朽ちた壁、古びた木材、などのテクスチャ表現も、
丹念になされ、そのリアルさが、氏の内的世界の表現に大いに寄与しています。

同時に、氏は雑誌用のイラストレーションの制作もしており、
こちらは、ユーモアを前面に押し出した作品となっていました。

この時期の作品は、どれも、メッセージ性も画面構成もストレートで、
最も石田徹也らしさを感じさせるものだと、私自身は考えています。

次の展示は二階へと移り、より後期の作品になりますが、
この頃になると、デッサン力、描画力がいちだんと向上し、
いままでになかったリアルな画質になります。
淡い光の表現がなされるようにもなってきました。

同時に、ストレートでシンブルだったメッセージ性はしだいに変質し、
石田徹也的なテイストや画風はそのまま残りつつも、
ひとつの画面を構成する要素の数は多く複雑になり、
非常に難解な印象となってきます。

石田徹也展リーフレット/裏

石田氏は踏切事故により31歳という若さで逝去したため、
今後の作風が変化を知ることはできないのですが、
氏が、このまま創作活動を続けていったならば、次はどのような段階に達したのか、
とても興味があるところです。

いずれにしても、こうして、じっくりと、
描き手の思いが込められた原画を鑑賞することは、とても有意義で、
かつ、今後の自分の作品作りにも、さまざまな意味で、影響を与えるものだと思います。

チューリップ公園

美術館を出たあとは、チューリップ公園を散策してみました。
天気もよく、お散歩には絶好でした。
園内には、池や水車、移築されたらしい旧家や花畑、また、
チューリップを模した展望台などがあり、多くの家族連れなどで賑わっていました。

今後も、美術館情報は、こまめにチェックしておきたいと思います。



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21世紀美術館

今回もまた美術館ネタになりますが、
先週末、石川県金沢市にある、金沢21世紀美術館で開かれている、
コレクション展『透過と反射』を見に行ってきました。
この企画展を知ったのは、先月、ヤノベケンジ氏のサイトを見ていたさいのことで、
開催期間のうちに、ぜひとも、行ってみたいと思っていたのです。

金沢の21世紀美術館は、現代アートの美術館であり、そのため、
一般的になじみのある、著名画家や作家の展示はあまりないかもしれないのですが、
こちらで開催される企画展は、いつも、好奇心をそそられるものばかりで、
また、作品の質も極めて高いものとなっています。

今回の企画展は、21世紀美術館が収蔵している作品のなかから、
透過と反射というテーマに沿うものを集め、展示するというものなので、
過去に見た作品や、常設のものも、一部含まれているようです。
ですが、すでに見た作品であっても、今回の企画展では、
あらたな視点で見ることができるかもしれません。

というわけで、祭日だった敬老の日に、金沢に向かって出発したのですが、
前週と同様、またしても、朝はバタバタしていて、出発が遅れてしまいました。
ここのところ、出発が遅れるのが常態化しており、いつかこの悪習を正さなければ、
と思っているのですが、いつもそのままになっています。

地下駐車場到着

富山を経由して21世紀美術館に着いたのは午後2時半頃でした。
いつものように、下道を選んでのルートを通ることとなりました。
休日ということで、しかも、折しもこのときは連休ということで、
美術館はあいかわらずの混雑ぶりとなっており、
美術館併設の地下駐車場に入るにも、いくらか待たされてしまいました。
つまり、この美術館は、それほどまでに賑わっているということで、
いまや、兼六園や金沢城趾と並ぶほどの、
街のランドマークのひとつといっていいかもしれません。

美術館内

こうしてようやく美術館に入り、チケット売り場へ。
館内では「透過と反射」展と対を成すように、「感性と定着」展も、
行われていましたが、ふたつの展示を満喫するには少し時間が足りないことと、
感性と定着展は10月半ばまで開催されているとのことで、
今回は「透過と反射」展に絞って見学することにしました。

○ 金沢市 / 金沢21世紀美術館

それにしても、金沢21世紀美術館の建物は、いつきても、モダンでカッコいいですネ。
アップルが美術館をはじめたら、こんな感じかもしれません。
(アップルだったら、もっと先鋭的になるのかもしれませんが)

さて「透過と反射」展の最初の作品は、
インド出身のアーティスト、アニッシュ・カプーアの作品でした。
この作品は、一作品のみを小部屋の中央に配置する、という展示方法がとられていて、
観客は、室内に入るだけで、外界とは隔絶された、特別な空間に入るような、
そんな感覚になると思います。
各展示会場は、当然のことながら撮影禁止なので、画像がなくて恐縮ですが、
作品は、四角い透明なアクリルの中に、空気の泡がかたまりになっている、
というかたちになっています。

その泡は、見ようによっては、くらげのようでもあり、星雲のようでもあり、
また、見る角度を変えるごとに、印象は大きく変わってきます。
泡の大きなかたまりのまわりには、無数の気泡があり、
それが、アクリルの中に固着して静止しているさまをじっと見ていると、
時間が静止しているような、そんな不思議な気持にもなってきます。
この透明な物質の中に存在しているものは、宇宙のかたちそのものではないか、
とも思えてきます。

○ 21世紀美術館 / コレクション展 I 透過と反射

次の作品は、同じカプーアの作品で、常設となっている「カプーアの部屋」です。
コンクリートの壁面を穿つように、黒い楕円が描かれているものですが、
(実際には黒ではなく、藍色とのことですが…)
この楕円を見ていると、世界の果てを覗いているような、
そんな気分になってきます。

次の部屋では、日本人作家も交えての集合展示となっていました。
とくに、ガラスを使った作品が印象に残りました。

ちょうどいま、NHKの「100分で名著」という番組で、
般若心経をとりあげていますが、そのなかで、
世界はうつろいゆくものであり、実体はないのだ、と説いていました。
透過と反射という言葉は、そのうつろいゆくものと、なにかしら、
重なるものがあるように思います。
反射して見える世界も、透けて見えるその先にある世界も、視点を変えれば、
とめどなくその様相を変えていきます。
これらの作品は、うつろっていく世界のありようから、
なにかをつかみとって、それをかたちとして定着させようとした、
そんな試みの結晶なのかもしれません。

こうして、各部屋の作品を鑑賞して回り、今回の目的のひとつだった、
ヤノベケンジ氏の作品まで至りました。
作品は、いびつな球体型のタンクのような、ロボットのような、そんなオブジェです。
一見すると、透過と反射というテーマに合ってないようにも思いますが、
タンクの中央にはガラスを嵌め込んだ円い窓があり、
そこには、水が満たされていることで、テーマとの合致に気がつきました。

解説書によると、この作品は、作者の外界から自らを守る心の防護壁であり、
また、胎内でもあるとのことでした。
タンク内の水は、羊水を模した塩水であるとのことです。
いわば、内的な精神の殻を具象化したということなのでしょうが、なによりも、
その形状がユーモラスで魅力的です。

最後は、オラファー・エリアソンという作家の、巨大なオブジェです。
ステンレスで作られた六角推を無数に集め、宇宙船のような物体に仕上げています。
その内部には入れるようになっていて、一歩足を踏み入れると、
鏡面仕上げされたステンレスによって、まるで万華鏡の内部に迷い込んだような、
そんな気持ちになります。
また、上下左右の感覚が遠くなり、浮遊感も感じます。

現代アートは難しく敷居が高い、と思っておられる方もいらっしゃるでしょうが、
こうした作品は、一種のアトラクション性のようなものがあり、
美術に興味のない方でも、充分楽しんでいただけるものではないかと思います。

このオブジェが最後の作品かと思っていたら、
なんと、トリは、常設展示物である「レアンドロの泉」になっていました。

レアンドロの泉1

この造形作品は、プールの底の床面にガラスを張り、
そのしたに部屋を作ったものですが、こちらも、アトラクション性が高く、
しかも、考えてみれば、今回のテーマに合致するものだと思います。
ここは撮影が許されているので、いろいろと写真を撮ってきました。

レアンドロの泉2

ちなみにこちらは、レアンドロの泉をうえから撮影したものです。
うえとしたとで、皆が手を振り合ったりしていました。
プールの実際の水深は、ほんの数センチくらいだと思います。

その後も、シルクスクリーンを使った作品を展示した「金光男」展、
見立ての実験室展を見て回りました。

床の上の作品

こちらは、金光男展に展示されていた作品のひとつです。
この会場内は作品の撮影が許されており、こうして、写真に収めることができました。
作品は床に置いてあり、無造作に転がっているように見える電球も、コードも、
すべてが作品となっています。

作品は、パラフィンのうえにシルクスクリーンで印刷されている状態となっており、
それを電球が溶かすことで、あらたな造形を生み出すということらしいです。

美術館周囲の公園

円形の美術館の周囲は公園になっていて、そこには、多くの人が散策していました。
この公園は、金沢市民や観光客の憩いの場になっているようです。

こうして、二週に渡って美術館を巡ってきましたが、
とても有意義で、また、さまざまな意味で刺激を受けることができました。
こうした経験の蓄積が、お仕事の面で、生かすことができれば、と、
思っています。





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豊田市美術館

9月入ってから、空の色が、少し秋めいてきたように思います。
もっとも、今年の夏は天候が不順で、ここ岐阜県飛騨地方も、
雨の日ばかりが目立って多く、空の色の移り変わりを察知できるほどに、
夏の青空を見ることもなかったのですが…。

また、こうしたぐずついた天候と同じように、お仕事についても、
8月は滞り気味で、あまり進展がなかったのですが、今月に入って、
諸事動きがでてきた感じになっています。

さて、そんな先週の週末、
愛知県豊田市の豊田市美術館で、7月15日から開かれている、
ドイツとオーストリアの雑誌デザイン | 1890 - 1910展に行ってきました。

もともと、アール・ヌーヴォー、アール・デコが大好きな私にとって、
このような企画展は、もう、ぜったいに外せません。
というわけで、私が住む飛騨高山から、愛知県豊田市までは、
けっこう遠いのですが、それでも、なんとか日帰り圏内ですし、
今回、思い切って、見に行ってみることにしました。

おりしもこの日は、雨ばかりが続いているここ最近のなかで、
めずらしく安定した好天となり、せっかくですので、
夏のあいだはあまり出番のなかった、MINIで出かけてみることにしました。

とはいえ、出発前は家でゴタゴタしていて、結局、家を出たのは午前11時。
長距離を走るにはいささか遅すぎる出発ですが、
それでも、青空のしたを、快適にドライブすることができました。

MINIでの豊田行き

19世紀末から20世紀初頭のドイツといえば、
カイザーをいただく帝政ドイツの末期にあたるころではないかと思います。
知識が乏しくて恐縮ですが、
この時期は、急速な工業化、大量生産化が社会に広がっていく、
黎明期にあたる時代だと思います。
(この同じ時期の日本は、日清日露の両対外戦争を経験し、
 新興の列強国として、国際社会の場で認められた頃だといえると思います)
一方のオーストリアも、
ハプスブルグ家のオーストリア・ハンガリー帝国の末期にあたるころで、
隣国のドイツ共々、
社会が急速に様変わりしていく時期ではなかったかと思います。

工業化は印刷技術の飛躍的な進歩も生み、そこでは、
時代に即した新しい大衆芸術も生まれてきました。
グラフィックデザイン、イラストレーション、などは、
この時代に始まった、と、いえなくもない、などと、私自身は思っています。

その後、両国は、第一次世界大戦や、
ファシズムの台頭を経験していくことになるのですが、
こうした、大きな時代のうねりのなかであったからこそ、
過去の様式と決別した、先進的で斬新な創造物が生まれてきたのかもしれません。

久しぶりの豊田市美術館

…というわけで、我が家を出発しておよそ4時間後、
無事、豊田市美術館に到着しました。
ひさしぶりでのMINIでの長距離運転でしたが、難無く、
乗り切ってくれました。
ただ、MINIでのドライブは、ちょっと暑かったですネ。

豊田市美術館にやってきたのは、五年ぶりくらいだと思います。
ただ、企画展などもいろいろやっているようなので、
できれば、もう少し頻繁にきたいものです。

チラシ

ドイツとオーストリアの雑誌デザイン | 1890 - 1910展は、
美術館内のふたつの展示室を使って行われていました。
主な展示は、ドイツの大衆紙「ユーゲント」や、
美術誌「ヴェル・サクルム」など、当時の雑誌の展示や、
アール・ヌーボーの造形物である、ドアノブ、ポット、コーヒーカップ、や、
また、椅子などの展示もありました。
これら椅子のなかには、C.L.マッキントッシュのものも、多数、
含まれていました。

撮影ポイント

こちらは、展示会場内で唯一撮影が許されているポイントです。
背後の椅子は、マッキントッシュのレプリカです。
座ることも自由にできまるため、来場客のみなさんが、かわるがわる、
椅子の座り心地をたしかめたり、記念撮影をしていました。

また、同時代の絵画として、グスタフ・クリムト、
エドゥアルド・ムンク、エゴン・シーレなどの作品の展示もありました。
エゴン・シーレは好きな画家なので、
この会場で見ることができて、たいへん感激しました。

雑誌「ヴェル・サクルム」には、クリムトがデザインし、
イラストもクリムトが担当しているものもありました。
また、クリムトは、服飾デザインも行っていたようで、
ひとりで何役もこなしていた感があります。
この時代では、あたりまえのことだったのかもしれません。

ちなみに、この企画展の入場料は300円と、
たいへんリーズナブルでした。
興味をお持ちの方は、ぜひ、ご覧いただきたいと思います。
その同じ料金で、常設展なども見られるようになっています。

豊田市美術館 / ドイツとオーストリアの雑誌デザイン | 1890 - 1910

また、豊田市美術館は、建物の屋上も、
美術館にふさわしい雰囲気になっています。

豊田市美術館屋上

青空とモノリス状の構造物の対比が、幾何学的な美しさを醸し出しています。
キリコやマグリットの絵画みたいですね。

いずれにしても、こうした企画展は、あらゆる意味で有意義で、大いに刺激されます。

今後も、こうした催しには、後学の意味も込め、
可能な限り、積極的に出かけたいと思っています。



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