
先日、カルコス(地元の書店)の文庫コーナーで、
平積みにされている「その女アレックス」というミステリ小説を見つけました。
巻かれた帯には「週刊文春ミステリ第1位」という文字が、大きく躍っています。
そのときは、買おうかどうしようか大いに迷ったのですが、
結局、買わないまま帰宅してしまいました。
ですが、その後もずっと、この小説が気になってしまい、Amazonで検索してみました。
すると「その女アレックス」は、三部作の二作目にあたるとのこと。
レビューによると、本作から読んでしまうと、一作目のオチがわかってしまうそうです。
というわけで、先日、同じカルコスで、
三部作の第一作となる「悲しみのイレーヌ」という文庫を買ってきました。
この悲しみのイレーヌから、その女アレックス、傷だらけのカミーユ、と続くそうです。
一連の作品は、フランスのミステリ作家、ピエール・ルメートルという作家が書いたもので、
カミーユ・ヴェルーヴェンというフランス司法警察警部を主人公にしたものらしいです。
(三部作はすべてこのヴェルーヴェン警部が主人公となるようです)
というわけで、今回は、この悲しみのイレーヌのレビューを少し書いてみたいです。
(ちなみに、不勉強な私は、ルメートルという作家を、このとき初めて知りました)

時は2003年4月……。
パリ警視庁の警部、カミーユ・ヴェルーヴェンは、部下であるルイから電話を受けます。
ルイは、パリ北西部の郊外「グルブヴォア」で、
陰惨な殺人事件があったと、上司であるカミーユに報告します。
現場は、グルブヴォア再開発地区にある、とあるロフトの中。
そこには、若い女性らしき死体が転がっていました。
しかも、その状況は壮絶極まるもので、壁には一面の血痕と、
切り落とされた首があり、腹を切り裂かれた胴体がありました。
しかも、被害者は、ふたりいたことがすぐに判明します。
カミーユ・ヴェルーヴェン警部は48歳。
パリ警視庁の古株で、敏腕との評判も高く、周囲からも一目置かれています。
とはいえ、母親が重度のニコチン依存症であったせいか、
カミーユの成長は途中で止まってしまい、大人になった今でも、
身長が145センチしかありません。
障害があるわけではありませんが、
身体的に大きなハンディキャップを背負っているともいえる人物です。
さっそくカミーユは、ロフトの改装を手がけた不動産開発企業のオフィスを訪ねます。
すると、社長は、件のロフトは「エナル」という男に貸したのだと言います。
一方、犯行現場の血まみれの壁には、指紋があったことが判明します。
ところが、この指紋は、自然についたものではなく、スタンプされたもので、
どうやら、犯人の署名的行為であるとの説が出ます。
カミーユは、この指紋を含め、ロフトに残された遺留品に着目し捜査をはじめますが、
犯人の周到さに阻まれ、確たる手がかりをつかめません。
そうこうするうちに、過去にも、同様の事件があったことが判明します。
その事件は、パリ郊外のトランブレで発生しており、被害者は今回と同じ娼婦でした。
しかも、被害者の口は、両耳まで切り裂かれ、
そのうえ、首を切断されるというおぞましいものでした。
未解決のこの事件も、犯行現場には指紋スタンプがあったのです。
カミーユは事件を追っていくのですが、捜査情報がマスコミに漏れ、
苦戦を強いられていきます……。

この小説は、キャラクターの立て方がとても上手です。
まず、主役のカミーユ・ヴェルーヴェン警部ですが、前述したように、
身長が145センチしかありません。
低い身長ゆえの生活の描写がそこかしこに散りばめられています。
同時に、カミーユと母との関係、母と父の関係、についても触れられ、
この小さいが明敏な中年男性の生い立ちと家庭環境や特技が順に語られていきます。
さらに、部下のルイ、アルマン、マレヴァル、
といったカミーユ率いる班の面々の容貌や人となりについても、
抜かりなく説明が加えられていきます。
どのキャラクターもディフォルメが効いていて、
読み手の頭に、しっかりとイメージが作られます。

また、海外の翻訳小説というと、物語の視点人物が複数で、
頻繁に変わっていく、ということがよくありますが、
本作は、視点人物が、カミーユ・ヴェルーヴェンで、ほぼ統一されており、
(もっとも、途中で視点人物が変わってしまうところがあるのですが)
そのあたりが、非常に読みやすくなっています。
いわゆる三人称一視点形式ですので、ふだん、海外翻訳ものの小説を読まない人でも、
すんなりと物語世界に入れると思います。
なにより、キャラクターがうまく立ててありますので、
そのあたりでも、入りやすいと思います。
しかし、この作品でなによりも驚いたのは構成です。
本書は、第一章、第二章、エピローグから成っていますが、
第一章がほとんどで、第二章はわずかです。
そしてなにより驚くのは、第一章の終盤で、
これは小説だったのか!、と判明するところです。
なにをいってるんだ、とお思いでしょうが、この意味は本作を読めばわかります。
なるほど、と思わず唸ってしまいました。
こういう構成って、新鮮です。
(私がしらないだけで、同様の構造の小説はほかにもあるのかもしれませんが)
ただ、この邦題はちょっといただないかも。
この題名は、あきらかに終盤の展開を示唆しています。
三部作なので、題名も統一感のようなものが欲しかったのかもしれませんが、
もうちょっと、ほかに題名はなかったものかと思ってしまいます。
○ ピエール・ルメートル「悲しみのイレーヌ」の情報はコチラ。文春文庫サイト ~
私は、本作を読んだ後、夜、眠れなくなってしまいました。
それでも、次作のその女アレックスを買ってきてしまいました。
(じつは、もう、読んでしまいました)
今月は、このあとも、ヴェルーヴェン警部に付き合うことになりそうです。
コチラをクリックしてくださるとうれしく思います。
FC2 Blog Ranking