
前々々回、本ブログで、
フランス人作家ピエール・ルメートルの「その女アレックス」を取り上げましたが、
今回は、その次作である「傷だらけのカミーユ」のご紹介をしたいと思います。
この傷だらけのカミーユは、カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズの第3作目で、
完結編的な作品となります。
もっとも、読んだのはすでに2ヶ月以上も前のことなので、
記憶をたよりに、ご紹介することとなります。
とはいえ、こんなこともあろうかと、読後に「読書メモ」がつけてあるので、
なんとか、本作品の魅力を、うまくお伝えすることはできるかな、などと思っています。
この傷だらけのカミーユは、いまも申し上げたように、
前作「その女アレックス」のあとの作品になりますが、時系列でいうと、
本作の前に、4作目となる中編「我が母なるロージー」が入るという順番になるようです。
なので、最後の4作目が、順番としては、本作の「前」の出来事、ということになります。
ただ、我が母なるロージーを飛ばして、アレックスのあとに本作を読んでも、
まったく違和感はありません。
(ちなみに、我が母なるロージーもすでに読みましたが、
中編ということもあってか、物語にちょっと物足りなさも感じてしまいました)

さて、本作も、とてもどぎついシーンから始まります。
カミーユの恋人、アンヌ・フォレスティエが、
パリのショッピングアーケード「パサージュモニエ」で、
強盗団に襲われるというところから、物語がスタートします。
強盗団は二人組み、外部の通りからパサージュモニエへと通じる公衆トイレで、
犯行の準備を整えています。そこに、運悪くアンヌがトイレに入ります。
図らずも目出し帽で顔を隠す前の犯人と鉢合わせしてしまったアンヌは、
強盗のひとりから、銃床で激しく顔を殴られます。
恋人アンヌが襲われたことを知ったカミーユは、
かつての上司であり友人でもあるル・グエンや、
現在の上司であるミシャール女史を半ば騙し、捜査の担当を勝ち取ります。
犯人はモスバーグ500というショットガンを使っており、
この銃を使った凶悪な犯行は、過去にも起きていました。
その犯人はヴァンサン・アフネルといい、同年一月に、
一日に4件もの連続強盗を起こしていました。
アフネル一味は捕まっておらず、どうやら、またしても凶悪強盗事件を起こしたようです。
しかし、今回は、アンヌと出くわすという、アフネルにとっても予期しない事態が発生した、
というわけです。
すぐさま鑑識がアンヌに面会し、アフネルの写真を見せ、犯人はこの男か、と問います。
案の定、アンヌはアフネルを「犯人」と証言し、
今回の事件も、アフネルの犯行と断定されました。
さらに、アフネルと行動をともにしていたもうひとりの犯人は、
セルビア系のラヴィッチという男だということも判明します。
カミーユは、残忍な犯人により、妻イレーヌを殺されており、
今回、またしても、恋人アンヌが犯罪の犠牲者になったことで、
いつも以上に焦り、いきり立っていました。
そんなカミーユが次に取った行動は、パリ市内に住むセルビア系住民の一斉手入れでした。
このあまりに強引な捜査は、上司ミシャール女史や、予審判事のペレイラを、
半ばだますようにして行われたものでした。
ミシャールは激怒しますが、カミーユの暴走は止まりません。
一方、隠れ家を追われたラヴィッチは、
警察の目を逃れ、慣れ親しんだ隠れ家に落ち延びます。
そんなラヴィッチを「謎の男」が、待ち伏せしていました。

その女アレックスでは、冒頭、若く美しいアレックスが、男に誘拐され、
ヴァンの後部に押し込められるところから始まります。
アジトに連れて行かれたアレックスは、裸にされ、小箱に押し込められ、
緩慢ではあっても耐え難い拷問を受けます。
本作も、冒頭、アンヌの顔が殴られる描写がかなり長く書かれています。
読み手は、その女アレックスと同様、もうやめて、といいたくなりますが、
犯人の暴力はおさまりません。
作者のピエール・ルメートルは女性に恨みでもあるのか、と思うほど、
このヴェルーヴェンシリーズでは、女性に対する暴力が、徹底的に描かれています。
もう、読むのがイヤになってしまうのですが、この先どうなるのかが気になって、
本を閉じることなど、もう、できません。
こうなるともう、完全にルメートルの術中にはまっているということですね。
しかも、ストーリーの構造も、中盤から大きく変質します。
読者は、カミーユ・ヴェルーヴェン警部同様、作者に騙されることとなります。
なのに展開には不自然さや強引さを感じません。
いやはや、さすがで、ほんとうによくできています。
やっぱり、海外翻訳ミステリーはすごいなあ、と、あらためて感じてしまいました。
こうした着想をどうやって得るのか、ご本人に訊いてみたい気持ちでいっぱいになります。

ルメートルは、
悲しみのイレーヌ、その女アレックス、傷だらけのカミーユ、我が母なるロージー、
の4作で、ヴェルーヴェン警部シリーズは完結したといっているらしいです。
ということは、もう、カミーユには会えないということで、これはほんとうに残念です。
なにしろ、本作を読み終えると、この先カミーユはどうやって生きていくのか、と、
とても心配になってしまうからです。
○ 文春文庫「傷だらけのカミーユ」の情報はコチラ~ ~
ルメートルの作品は、ヴェルーヴェンシリーズ以外にも、
死のドレスを花婿に、や、監禁面接、
また、第一次大戦から第二次大戦までのあいだを題材にした、
天国でまた会おう、という三部作の時代小説があるとか……。
今度は、こちらも、ちょっと読んでみたいなあ、と思っています。
コチラをクリックしてくださるとうれしく思います。
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