プロジェクト・ヘイルメアリー

ヨメがコロナに感染して、一週間余りが経過しましたが、
おかげさまで、ヨメの症状は、発熱を除き、さほど重い状態にはなっていません。
私も濃厚接触者ということで、おそらくは感染しているようはずですが、
発熱についてはまったくなく、顕著な体調不良はないままです。
そんな状態なので、わずかでも発熱があったら発熱外来に行く予定をしていたのですが、
そのきっかけもつかめないままとなっています。
もしかしたら、感染していない可能性も捨て切れません。
ただ、喉に違和感があるので、感染していないとはいいきれないような……。
私は三ヶ月前に、コロナ三回目のワクチン接種を受けていますが、
そのさいは、モデルナを受けました。
ファイザー製のワクチンを打った時は、なんの副作用もありませんでしたが、
モデルナを接種した時は、その翌日から重い副反応が出て、非常に辛い思いをしました。
ですが、いま思えば、この3回目モデルナが、効果を発揮しているのかもしれません。
いずれにしても、思うように外出もできませんので、
今回もまた、ブックレビューネタで、いってみたいと思います。
取り上げるのは、アンディ・ウィアーの『プロジェクト・ヘイル・メアリー』です。

早川ハードカバー

この本を最初に見かけたのは、岐阜市の丸善(マーサ21内)でした。
そのときから心惹かれていたのですが、三体の全巻読破でけっこう出費してしまったため、
ヘイル・メアリーは、読みたいと思いつつも、しばらく眺めるだけでした。
なにしろ、ハードカバーは高いですから
とはいえ、Amazonなどで、ヘイル・メアリーが高評価を受けているのを見ると、
やっぱり、読みたくなってしまいまして……。
というわけで、ついに先日、物欲に負けて、
プロジェクト・ヘイル・メアリー上下二巻を、ゲットしてしまいました。
(まだ未読ですが、ヘイルメアリーを買う前に、ピエール・ルメートルの
天国でまた会おう、も買っていますので、ここ最近の私は、
ハヤカワ書房に多大の貢献をしています)

アンディ・ウィアーは『火星の人』というSF小説で有名な作家です。
この作品は、マット・デイモン主演で映画化され、大きなヒットとなりました。
邦題は『オデッセイ』という名になってしまいましたが、
火星に残された宇宙飛行士のサバイバルを描いたこの作品を、
ご覧になった方も多いのではないかと思います。

今回のヘイル・メアリーも、この火星の人と同様、
宇宙船内にひとり生き残った主人公の、現在と過去を織り交ぜた物語となっていて、
そのあたりは、火星の人とちょっと似ている感じもあります。

ヘイルメアリー文面

その物語は……。
物語の主人公『ぼく』は、円筒形の部屋で目覚めます。
しかし、自分が誰か思い出せず、また室内には、ふたつの遺体があります。
死後、相当な時間が経過しているのか、遺体はすでにミイラ化していました。
主人公が目覚めた部屋の上には、同じ大きさの部屋があり、
なにかの研究室なのか、さまざまな実験用機材で埋め尽くされています。
やがて、断片的に主人公の記憶が蘇ってきます。

主人公はライランド・グレースという、中学校教師でした。
かつては学者でしたが、宇宙の生命体に関する論文を発表したのを最後に、
アカデミックの世界と縁を切り、教員として生きがいのある日々を過ごしています。
そんな彼の元に、ある日、四十代半ばと思しき女性がやってきます。
彼女は、グレースがかつて発表した論文に注目しており、
金星から回収した微生物の調査研究をグレースに要請します。

この微生物は、太陽から金星に伸びる赤外線帯に含まれていたものです。
この生物は赤外線を放射しており、その輝度が増すごとに太陽の光度が減少しているのです。
その現象は指数関数的に増えており、太陽はやがて10パーセントほど暗くなるというのです。
もし太陽がそれだけ暗くなれば、地球生物はことごとく死滅します。
グレースは、この微生物が太陽のエネルギーを質量に変えて蓄えていること、や
金星の二酸化炭素を使って増殖していることを、突き止めます。
しかも、地球近隣の恒星は、ことごとく、この微生物「アストロファージ」に感染し、
のきなみ、光度を減少させていることも判明します。
ところが、感染域の中心に位置する『くじら座タウ星』だけは、
どういうわけか、感染を免れている、らしいのです。

どうやら、グレースは、光量をダウンさせた太陽を救うために、
宇宙船に乗ってタウ星系の調査にやってきたらしいのです。
そしてグレースは、タウ星の調査を始めるのですが、
そこで、思いもよらない未曾有の事態に遭遇するのです。

ヘイルメアリー背表紙

このように、物語は、記憶を失ったぼくと、
回想というかたちで語られるぼくの過去との、ふたつの視点によって進行していきます。
(どちらも同じ人物ですが、2視点になっている感じです)

科学的な説明、宇宙船の構造の説明、などがとても丹念になされていて、
読んでいて、シーンがありありと浮かんできます。
小説ですが、まるでハリウッド映画を見ているような感じです。
サバイバルものでもあり、またバディものでもあって、とても楽しますし、
なによりも、物語の構成がとても見事です。
しかも、ストーリー展開のテンポがよく、おもしろさにグングン引き込まれていきます。
極上のエンターテインメントです。

○ プロジェクト・ヘイル・メアリー アンディ・ウィアー著 ハヤカワ書房 ~

ですが、主人公グレースの描写は、ちょっと軽いというか、一面的な気もします。
主人公は三十代の男ですが、そうであれば、一定の人生経験を持っていそうなものです。
ですが、グレースの、交友関係、恋愛観、人となり、については、
さほど書かれておらず、上下二巻の小説としては、物足りなく淡白な気もしました。
(こうした面においても、よくも悪くもハリウッド映画的な気がしました)

Amazonの広告のなかには「三体の次はコレ」みたいなキャッチコピーがありますが、
私としては、やっぱり、断然『三体』推しです。

ヘイルメアリー上下二巻

ちなみに、先日、本屋さんの店頭で『三体X』なるハードカバーを発見。
これは劉慈欣氏の手になるものではなく、別の作家が書いた、二次創作小説です。
そういえば、この二次小説の話は、三体の後書きにも書いてありましたね。

原作『三体 III 死神永世』で、語られることのなかった、
雲天明(ユン・ティエンミン)とアイAAの話なのだそうです。
これは気になる。
でも、劉慈欣作ではないってところが、けっこうひっかかりはするのですが、
やっぱり、強烈に読みたくなってしまいますよね。

でも『同志、少女よ敵を撃て』も、読みたいですし、かといってハードカバーは高いしで、
いろいろと悩ましいです。
(それにしても、みんなハヤカワですね……)

ただ、コロナの急拡大で、これからもお出かけの機会は遠のきそうですので、
本ブログでも、今後は、読書系の話題が多くなりそうな感じです。



コチラをクリックしてくださるとうれしく思います。
FC2 Blog Ranking

アリスが語らないことは

お盆を過ぎて、酷暑も少し一段落した感があります。
今年は梅雨明けが早かったものの、その後も、なにかとぐずついた天気が多く、
これでほんとうに梅雨明けしたのかと何度も思ったものです。
しかも、各地で、大雨の被害が続出し、驚きもしました。
なんだか、梅雨が八月までずれ込んだような印象です。

我が家では大雨の被害こそなかったものの、ついにというべきか、
ヨメがコロナになってしまい、その後は、なにかと不便な生活をしています。
いまのところ私には顕著な症状はないのですが、
夫婦ともに生活していますので、感染、罹患のリスクは非常に高いかと思います。
もし、発熱があるようだったら、速やかに発熱外来にいかなくてはと思っていますが、
いまのところは大丈夫なようで………。
今後も症状が出ないことを祈るばかりです。

そんなわけで、なかなか外に出るのもままなりませんので、今回もまた、
ブックレビューでしのぎたいと思います。
今回取り上げるのは、ピーター・スワンソンの「アリスが語らないことは」です。
この本、だいぶ前に読んだのですが、ブログネタに困っているということもあり、
急遽、取り上げることにしました。

ピーター・スワンソンはアメリカの作家だそうで、
まださほど作品が多くない作家のようです。
そしてミランダを殺す、という作品が有名なようですが、
私はこのアリスが語らないことは、を、最初に読むこととなりました。

創元文庫背表紙

さて、その物語ですが、
大学を卒業したばかりの若者「ハリー・アッカーソン」を視点人物とする現代と、
アル中の母と、継父とクラス「アリス・モス」を視点とする過去との、
ふたつの時間軸が同時進行する形で、進んでいきます。

大学生のハリーは、大学の卒業式を間近に控えたある日、
父が遺体となって発見されたと知らされます。
知らせてきたのは、父の再婚相手、アリスでした。
すぐさまハリーは、故郷であるアメリカ東海岸の小さな町「ケネウィック」に帰り、
悲しみに暮れる後妻、アリスと対面します。
ハリーの父ビルは、稀覯本を扱う書店を経営しており、
その2号店を、ここケネウィックに出していました。
ビルの最初の妻、すなわちハリーの母は、癌で他界。
その後、ビルは、十五歳年下のアリスと再婚し、ケネウィックに住んでいました。
ハリーから見て、アリスは十五歳年上です。
が、美しいアリスに、ハリーは否応もなく性的な妄想を抱いていきます。
そんなある日、家を訪ねてきた警察官が、父ビルの死因には不審な点があり、
他殺の可能性があるとハリーに告げるのです。

この物語と並行して、過去の物語も進んでいきます。
職場のボイラー爆発事故により多額の保証金を得たアリスの母イーディスは、
一人娘のアリスを連れ、アメリカ東海岸のケネウィックに引っ越してきます。
ある日は、イーディスは、娘のアリスに、ある男性を紹介します。
その男は、ジェイク・リクターという、ハンサムでリッチな銀行マンでした。
やがて、イーディスとジェイクは結婚するのですが、
アリスは次第に、継父のジェイクに心を惹かれていきます。
一方のジェイクも、アル中であるイーディスを見捨てることなく結婚生活を続けるのですが、
ジェイクの本当の狙いは、美少女のアリスでした。

アリスが語らないことは文面

物語の進展は非常にゆっくりとしています。
トリッキーな展開や、奇想天外なアイデア、唸るような綿密なプロット、などはありません。
ハラハラドキドキ、という要素もほとんどなく、物語は、静かに、淡々と進んでいきます。
そのかわり、ケネウィックという架空の町の描写が、とても念入りにされています。
本作を読んでいると、少し寂しげで、それでいて風光明媚な東海岸の町ケネウィックが、
ありありと目に浮かんできます。
私は、ケネウィックは実在の町かと思ったほどです。

本作のもう一つの魅力は、アリス・アッカーソン(アリス・モス)の描写です。
エロティックで、謎めいていて、まるでつかみどころない女性であるアリス。
父の再婚相手であるこの女性をまえにしたハリーの煩悶が、
現代の物語の中で、際立った描写となっています。

○ 東京創元社 アリスが語らないことは ピーター・スワンソン ~

過去に物語では、思春期のアリスの視点で描かれていて、
アリスが社会や世界、自分を取り巻く人間ををどう捉えているかが、
理解できるようになっています。

ハリーが感じるアリスの美しさと、
ジェイクの視点から見たアリスの美しさの差のようなものも、興味深いです。

創元文庫裏側

この作品はミステリーで、連続殺人を扱っていますが、
静かで淡々とした展開と、町の描写が魅力かなと思います。
読んでいると、ビルとアリスが住んでいた「グレイレディ」という屋敷が、
ありありと目に浮かんできます。
ただ、帯にあるような、とてつもない衝撃、という感じではないかなと思います。
(最近の本の帯は、やたらと大げさな表現が多いように思います)

以前に読んだ、ピエール・ルメートルの「監禁面接」のような、
痛烈な面白さはないのですが、この作家なりの魅力が溢れた作品なのかなと思います。
創元推理文庫はお値段がちょっと高めなのですが、今度は、
そしてミランダを殺す、を読んでみたいな思っています。
(読みたいものがいっぱいで、困ってしまいます)


コチラをクリックしてくださるとうれしく思います。
FC2 Blog Ranking