
今年はなにかと忙しく、
2月から3月にかけては、とくにたいへんだったのですが、
4月に入ってからは、それらもようやく一段落がつき、
二泊三日で長野旅行に行ったりなどしていたのですが、
ふたたび、かなりまとまった数のイラストを、
一気に引き受けることになり、連休が明けてから、
また、いそがしくなってしまいました。
まあ、このような田舎に住んでいながら、次々に仕事が入るというのは、
たいへんありがたいことで、今後も、クライアントにご満足いただけるような、
クオリティの高いイラストを制作し続けていきたいと、思うばかりです。
…と、このような状況なので、
またしても、ブログの更新が滞り気味になってしまいましたが、
今回は、久しぶりの本ネタを書いてみたいと思います。
ご紹介するのは、北林一光氏の「サイレントブラッド」
以前、このブログで紹介した「ファントムピークス」と同一の作者です。

さて、本作のあらすじは……………。
長野県大町市の爺ヶ岳登山道入口付近で、廃車同然になったクルマが発見される。
そのクルマの持ち主は沢村健一。
東京の中堅印刷会社に勤める沢村は、その前年、
何の前触れもなく突然の失踪しており、家族から捜索願が出ていた。
沢村の息子である一成は、大町を訪れ、
登山口で放置されたクルマの確認をするのだが、
その現場で出くわした、地元に住む若い女から
「あなたはタケルという名ではないか」と、
奇妙で唐突な質問を受けることとなる。
聞けば、女は、地域では有名な霊能力者である「翡翠のオババ」という人物から、
爺ヶ岳登山道付近の駐車場にタケルがいるから捜してきてほしい、と、
頼まれたというのだ。
一成は、自分はそんな名ではないと否定するが、
若い女は、オババの霊感が外れることはないと強弁する。
一成の父である健一は、なぜ、家族に何も告げず失踪したのか、
なぜ、縁もゆかりもないはずの大町などにやってきたのか、
そして、タケルとは、いったい何者なのか…。
父の行方を追う一成のもとに、やがてひとつのキーワードが浮かび上がる。
カクネ里
それは、平家の落人伝説が残る黒部の秘境であり、
常人では足を踏み入れることの叶わぬ地であるという。
この地には、すべてのナゾを解く鍵がある。
そう確信した一成はカクネ里を目指すのだが…。

本作は、ファントムピークス同様、信州を舞台にしています。
ファントム~のときは、烏川渓谷緑地が物語の舞台となっていましたが、
今回は、大町(青木湖周辺)となっています。
このあたりは、私も、過去に何度となく訪れており、
そのため、リアルに情景を思い描くことができました。
(ただ、爺ヶ岳登山口や爺ヶ岳スキー場のあたりは、行ったことがないのですが)
物語の展開は小気味よく、しかも、無理がなく、
もう、グングンと読み手を引き込んでいきます。
ほんとうに、手に汗握るおもしろさです。
このあたりのテクニックはすごいなあ、と、思わず、感嘆させられます。
主人公の一成の性格や、ヒロインの美雪の人となりなど、
ふたりともまだ二十歳前後のはずなのに、いささか老成しすぎているな、と、
思わなくもないですが、
(とくに、ヒロインの美雪は、ファントムピークスに登場する、
女性学者と雰囲気がダブります)
そんな思いを抱きつつも、とにかく、ストーリーに引き込まれてしまいます。
ですが、本作においては、その最後で、
あまりに性急に謎解きをしてしまい、それまで、しっかりと地に足をつけて、
物語を展開させていたのに、なんだか、説明に終始してしまう感があります。
しかも、そのなかには主人公や登場人物の憶測も混じるなど、
辻褄合わせに少し無理と思える部分もあり、
あまりに荒唐無稽な心霊現象を登場させるなど、
推理小説ファンには受け入れにくい場面もでてきます。
北林一光氏は、ファントムピークスと本作を書き上げて後、
病により若くして他界したとのことですので、もしかすると、
氏は、本作の脱稿をかなり急いだのかもしれません。
氏の健康状態に問題がなければ、
このようなラストにはならなかったのかもしれません。
(私の勝手な憶測ですが)
ですので、作品の出来としては、ファントムピークスのほうが、
よかったのではないか、と、思っています。
いずれにしろ、ラストに不満は残るものの、読み物としてはたいへんおもしろく、
新進気鋭の作家らしいパワーや、初々しい感覚も溢れていると思います。
また、ファントムピークスのときもそうでしたが、
信州への深い愛情をうかがわせる小説です。
とくに、山の描写は白眉で、
実際に現地を知らなければ、このようには書けないのではないかと思います。
北林一光氏のミステリー作家としての力量はとても大きく、
よって、氏の早逝は、かえすがえすも残念なのですが、
たとえニ作品といえども、出版というかたちで日の目を見て、
かつ、多くの読者から支持されているということは、
生前、氏が積み重ねてきた努力に対する、大きな報いになっているのではないかと、私は思っています。
この本を読むと、ふたたび、信州の地を訪れたくなるものです。
コチラをクリックしてくださるとうれしく思います。
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