ジェノサイド上下巻

今年は、比較的、雪の少ない冬だと思っていたのですが、
二月に入ってから、連続して『週末の大雪』に見舞われ、
こんな天候では、もはやどこかに出掛けるという気にもなれず、
結局、家でおとなしくしていることしかできませんでした。
そんなわけで、ここ最近は、日曜であっても、
雪掻きをしたり、やり残した仕事をしたりという、
つまらない過ごし方をするばかりとなってしまっています。
まだまだ春は先なのですが、早く雪が溶けてなくなってくれないかと、
かなわぬことを願うばかりです。

そんなわけで、今回は、当ブログには珍しく、前回に引き続き、
ブックレビューネタを書いてみたいと思います。
今回は、高野和明氏の小説『ジェノサイド』です。

私は、書店の店頭に平積みされていた、
この作品のハードカバー版を見たときから、
とても強く心惹かれていたのですが、なにしろハードカバーはお値段も張りますし、
場所もとるので、いつか文庫になったら、読んでみよう、などと、
思っていたのです。

そうこうするうちに、昨年末、書店の文庫コーナーに本書を見つけ、
思いのほか早く文庫になってくれたなあと、心密かにほくそ笑みがら、
レジへと向かいました。
とはいえ、前回レビューした『永遠のゼロ』と同様、
このジェノサイドも、日々のいそがしさもあって、
しばらくは自室の棚に「積んどく」状態となっていたのですが、
今月、ようやく読了することができました。

本書は、難病の息子を抱えるアメリカ人の傭兵と、
父を亡くした若い薬学研究者という、
まったく接点を持たないふたりの主人公を、交互に登場させながら、
なおかつ、アメリカの政権中枢部からの視点や描写も差し挟みつつ、
ストーリーが展開していく、という構成になっています。
そして、このみっつの場面の繋がりが見えてきた時、
人類の行く末を左右する重大な事柄が浮かび上がってくるのです。

ジェノサイド/文面

この物語は、ミステリーというにはSFに近く、
ともすれば、B級ハリウッド映画になってしまいそうな感もあるのですが、
圧倒的なまでの化学知識、軍事、政治知識などが、綿密に散りばめられていて、
まさに国際情報小説とでも呼べるような読み物となっています。
しかも、そのストーリーは緻密で、テンポもよく、伏線の張り方も見事で、
それでいて無理な筋立てがありません。
冒頭のプロローグから、一気に読み手を引き込んでいきます。
ほんとうにおもしろい。
読み進めるなか、エンターテインメント小説というのは、こういうものだ、と、
膝を打ちたくなる思いになりました。
上下二巻のかなりの長編ですが、中だるみや緊張感のとぎれはまったくなく、
謎解きや派手なアクションも織り交ぜつつ、
最後まで、ノンストップの勢いで読ませてしまいます。

登場人物の描写もすぐれていて、それぞれの外見、内面も、
過不足なく表現されており、あらゆる場面において、
情景が脳裏にくっきりと浮かんできます。
さすが「このミス」第一位を獲得するだけのことはあります。

本書を読んでいて、私の意識のなかで強く想起されたのが、
アーサー・C・クラークのSF小説『幼年期の終わり』です。
このジェノサイドという物語が練り上げられる段階で、
幼年期の終わりが、着想のさいのひとつのヒントになったのではないかと、
私は、勝手ながら強く推察しています。

幼年期の終わり

ある日、地球の主要な大都市の上空に、突然、巨大な宇宙船が飛来します。
その宇宙船を操る地球外知的生命体『オーバーロード』は、
最初こそ人類をパニックに陥れますが、世界はやがて、オーバーロードによって、
繁栄と幸福の時代へと導かれていきます。
その後、オーバーロードによって触発されたごく一部の人類は、
進化の次のステップへと移行することとなります。
オーバーロードの真の目的は、この人類進化の促進だったのです。
新しく誕生した人類は、しかし古い人類との共存は許されませんでした。
旧人類は、新しい人類を見届けた後に、淘汰される運命を辿るのです。
幼年期の終わり、とは、たしか、このようなストーリーだったと記憶しています。

クラークのこの作品は、ヒトのさらなる進化を描いたものでしたが、
ジェノサイドも、別のアプローチで、
同じテーマを描いているのではと思います。
『人間以上の存在』というのは、時代や洋の東西を問わず、
イマジネーションの源泉となっているものかもしれません。

また、本書では、作者自身の思想とでもいうべきものも、顔をのぞかせています。
ジェノサイドという題名を地でいくような、ときに残酷に過ぎると思える描写も、
そこまで書くか、と思うほどに書き込まれています。
地球の裏側で行われている非道の行為を、まざまざと描くことで、
繁栄と平和を享受している私たちが、同じ地球で繰り広げられている暴力に、
見て見ぬ振りを決め込んでいるということを、突きつけているかのように、
思います。

余談ですが、本書の中に登場する、
肺胞上皮細胞硬化症という難病も、ハイズマンレポートという存在も、
あとがきによると、架空のものだそうです。
双方とも、とても綿密に描写されているので、私はてっきり、
実際に存在するものと思っていました。
とくに、肺胞上皮細胞硬化症については、
発祥のメカニズムまできめ細かく説明してあり、架空のものだと推測することすら、
まったくありませんでした。

とにもかくにも、ほんとうに面白い小説です。
室内にこもることが多い冬には、こうした手に汗握る物語を楽しむのも、
一興かと思います。




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