三体ハードカバー表紙

本屋さんに行くたび、ずっと気になっていつつも、いままであえてスルーしていた、
劉慈欣の『三体』を、遅ればせながらやっと手に入れました。
中国のSF作家、劉慈欣(りゅう・じきん/リウ・ツーシン)が著したこの小説、
日本でもたいへんな人気ということで、すでに三十万部を突破したとか……。
しかも、私の大好きな『ファーストコンタクト』ものというこで、超・期待大でした。
でも、どうせなら、大きなインターバルを置くことなく、
全巻を読み切りたいということもあり、
いままで、平積みされているハードカバーを書店で横目に眺めていました。
が、この春、ついに完結編の三体3「死神永生」も発売されることとなり、
また、飛騨高山が、新型コロナ対策として展開する地域振興クーポン券が、
市内の一部の本屋で使えるということから、
実家に帰ったおり、本屋さんにダッシュして買ってきました。

まず、表紙ですが、このイラストからしていいですよね。
しかも、この『三体』というタイポグラフィが、なんとも中国的というか、
そんな雰囲気で、中華SFの雰囲気、満点な感じです。

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というわけで、さっそく読み始めたのですが、まず、その冒頭から驚きました。
第一部「沈黙の春」は、なんと、文化大革命の闘争シーンから始まります。
私は中国の出版事情というのはよくわからないのですが、中国在住の作家が、
文革の場面を描写していいのでしょうか……。
しかも、シーンは、あきらかに文革の狂気と暴力をとても酷く描写しています。
読み手は、文革がいかに非人間的で、残酷で、醜いものだったかを、
冷静に描写しています。
しかも、大検閲、大串連、といった、
当時使われていたであろう専門用語もふんだんに登場し、
中国作家ならではの臨場感のようなものを感じました。

以前、NHKで「大地の子」を日中合作という形で製作し、放映しましたが、
中国では、文革のシーンがあるがために、放送できなかったと、
なにかで聞いたように思います。
もしかすると、大地の子の製作当時と、いまとでは、中国の社会も、
大きく変わったのかもしれませんね。

第一ページ

いずれにしても、およそSFらしからぬこの冒頭の文革シーンは、
三体という小説において、後々、大きな意味を持ってきます。
このあたりが、中国発のSFならではという気もします。

物語はの最初のパートは、
主に、葉文潔(イエ・ウェンジェ / よう・ぶんけつ)という少女を通して描かれます。
理論物理学者であった文絜の父は、紅衛兵によって、反動的学術権威として、
多くの群衆の前で、徹底的に批判されます。
この批判には、彼の妻さえも加わり、まさに凄惨な集団リンチが行われるのです。
こうして、娘である文潔の目のまえで、父はなぶり殺しにされてしまいます。

それからおよそ四十年後……、
ナノマテリアルの研究者である汪淼(ワン・ミャオ / おう・びょう)は、
警官と軍人からなる、不可解な四人組の訪問を受けます。
指令センターと名付けらた場所へと連行された汪は、責任者である常(チャン)将軍から、
最近相次いでいる、何人もの科学者が、連続して謎の自殺を図っていると知らされます。
そのなかのひとり、物理学の女性科学者、楊冬は、
『物理学は存在しない』という謎の遺書を残していました。
これら謎の自殺の背景には『科学アカデミー』という団体があるようです。
汪は、その団体へ加入するよう常将軍から要請されます。
すなわち、科学アカデミーをスパイする役目を担わされたのです。

その直後から、汪の身辺に、不可解な現象が起こり始めます。
彼の撮った写真に、謎の数字の列が現れるようになったのです。
その数字は、時間を経るごとに数値が減る、いわゆるカウントダウンでした。
しかも、写真だけでなく、汪の網膜のなかにまで、
カウントダウンが現れるようになったのです。
科学ではあり得ない現象におびえる汪。
そんな汪は、やがて『三体』という謎のバーチャルゲームに出会うのですが……。

中面

最初の展開は、ミステリー小説仕立てです。
ですので、SFファンではない、ミステリー好きにも楽しんでもらえると思います。
ジェイムズ・P・ホーガンの傑作『星を継ぐもの』を彷彿とさせる感じでしょうか……。

翻訳物小説というと、センテンスが長くて読みづらい、ということがありますが、
この『三体』は、とても読みやすいです。
なによりも、訳者が複数ですので、極めて丁寧な翻訳がなされているかもしれません。
まるで、日本人が書いた小説のように、スラスラと読めてしまいます。

ただ、登場人物の名前はちょっと曲者です。
主人公の汪淼は、日本読みでは「おう・びょう」ですが、
中国読みでは「ワン・ミャオ」というそうです。
また、もう一方の主人公である葉文潔も、日本読みでは「よう・ぶんけつ」ですが、
中国読みでは「イエ・ウェンジェ」という読み方になるようです。
文中では、一応、中国読みを基本に、ルビが打たれていますので、
そちらに従って物語を読み進めるのですが、どうしても途中で忘れる……。
そのたびに、つっかえてしまいます。

早川書房でも、そのあたりは配慮したのでしょう、
この小説には、しおりのような『登場人物カード』が入っています。
このようなカードが入ったハードカバー書籍は、初めてお目にかかりました。
ちょっとびっくりです。

登場人物カード

なにかのパーティーの列席者一覧みたいな感じです。
でも、今後は、中国からの小説がさかんに翻訳されるようになるでしょうから、
中国名に慣れておくことも、必要なのかもしれません。

また、この小説は、海外翻訳モノの小説にありがちな、三人称多視点には、
ほとんどの場面でなっていません。
視点人物は、汪淼と、葉文潔、のふたりです。
このあたりの書き分けがきちんとなされているところも、
リーダービリティーが高いところかと思います。
(ただ、視点人物がぶれるところや、異星人の視点なども入っています)

ミステリー仕立てながらも、SFならではのアイデアが満載で、
なにより、VRゲーム『三体』という設定は、新しいSFだという感じがします。
このなかで登場する人列コンピューターは、素晴らしいアイデアで、
読んでいて、中国らしい壮観な場面が目に浮かびます。
そのほかにも、智子など、科学知識を駆使したアイデアが秀逸で、
物語に引き込まれてしまいます。
とくに、智子製造における失敗の過程が描かれているところが、
このアイデアに、リアリティと深みを与えていると思います。
(ちなみに、私は、この小説を読むまで、三体問題、については、
まったく知りませんでした)

ただ、気になってしまった点も、ほんのちょっとあります。
以下はネタバレになるので、三体を読むつもりでいるのに、
いまだ未読の方はスルーしてください。

マイク・エヴァンスは、人類文明を憎み、人類の滅亡を強く願う人物です。
文明の発展のために特定の生物種を絶滅に追い込んでしまう人類を、
異星文明の力を借りてでも、滅亡させたいと考えています。
でも、三体文明が、人類を滅ぼしたあと、地球の生物種の保全を図ってくれるかどうか、
すなわち、エヴァンスの信奉する『種の共産主義』を実践してくれるかどうかなど、
まったくわからないはずです。
三体文明は武力による地球制圧を図ろうとする種族であり、
考えてみれば、人間と似たような精神構造を持っていると、すぐに推察できるはずです。
ですので、エヴァンスの考えがあまりに短絡的で、
この思想で、多くのインテリ層を引きつけることができるのか、
読んでいて、眉をひそめるところです。

また、三体文明は、アルファケンタウリで発祥したという設定になっていますが、
アルファケンタウリは地球から最も近い恒星系になります。
宇宙的にみれば『お隣さん』状態かもしれません。
このアルファケンタウリに、しかも、乱紀と恒紀が入り乱れる劣悪な環境なのに、
高度知的生命体が発祥するというのは、ちょっと無理がないかな……、
とも思ってしまいました。
ただ、ストーリー上、電波の届く時間などを考えなければならないので、
この設定は、いたしかたないところかもしれません。

三体ハードカバー裏

……などと、いろいろ書いてしまいましたが、
この『三体』は、SFとしても、ミステリー的なエンタテインメントとしても、
とても楽しめる、オススメの小説です。

物語は、この『三体』では完結せず、以後に続きます。
まだ次作の黒闇森林は購入していませんが、このあとがどうなるのか、
もう、楽しみで仕方ないです。

次回黒闇森林を読了しましたら、また、当ブログで、
ご紹介したいと思います。


コチラをクリックしてくださるとうれしく思います。
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