アリスが語らないことは

お盆を過ぎて、酷暑も少し一段落した感があります。
今年は梅雨明けが早かったものの、その後も、なにかとぐずついた天気が多く、
これでほんとうに梅雨明けしたのかと何度も思ったものです。
しかも、各地で、大雨の被害が続出し、驚きもしました。
なんだか、梅雨が八月までずれ込んだような印象です。

我が家では大雨の被害こそなかったものの、ついにというべきか、
ヨメがコロナになってしまい、その後は、なにかと不便な生活をしています。
いまのところ私には顕著な症状はないのですが、
夫婦ともに生活していますので、感染、罹患のリスクは非常に高いかと思います。
もし、発熱があるようだったら、速やかに発熱外来にいかなくてはと思っていますが、
いまのところは大丈夫なようで………。
今後も症状が出ないことを祈るばかりです。

そんなわけで、なかなか外に出るのもままなりませんので、今回もまた、
ブックレビューでしのぎたいと思います。
今回取り上げるのは、ピーター・スワンソンの「アリスが語らないことは」です。
この本、だいぶ前に読んだのですが、ブログネタに困っているということもあり、
急遽、取り上げることにしました。

ピーター・スワンソンはアメリカの作家だそうで、
まださほど作品が多くない作家のようです。
そしてミランダを殺す、という作品が有名なようですが、
私はこのアリスが語らないことは、を、最初に読むこととなりました。

創元文庫背表紙

さて、その物語ですが、
大学を卒業したばかりの若者「ハリー・アッカーソン」を視点人物とする現代と、
アル中の母と、継父とクラス「アリス・モス」を視点とする過去との、
ふたつの時間軸が同時進行する形で、進んでいきます。

大学生のハリーは、大学の卒業式を間近に控えたある日、
父が遺体となって発見されたと知らされます。
知らせてきたのは、父の再婚相手、アリスでした。
すぐさまハリーは、故郷であるアメリカ東海岸の小さな町「ケネウィック」に帰り、
悲しみに暮れる後妻、アリスと対面します。
ハリーの父ビルは、稀覯本を扱う書店を経営しており、
その2号店を、ここケネウィックに出していました。
ビルの最初の妻、すなわちハリーの母は、癌で他界。
その後、ビルは、十五歳年下のアリスと再婚し、ケネウィックに住んでいました。
ハリーから見て、アリスは十五歳年上です。
が、美しいアリスに、ハリーは否応もなく性的な妄想を抱いていきます。
そんなある日、家を訪ねてきた警察官が、父ビルの死因には不審な点があり、
他殺の可能性があるとハリーに告げるのです。

この物語と並行して、過去の物語も進んでいきます。
職場のボイラー爆発事故により多額の保証金を得たアリスの母イーディスは、
一人娘のアリスを連れ、アメリカ東海岸のケネウィックに引っ越してきます。
ある日は、イーディスは、娘のアリスに、ある男性を紹介します。
その男は、ジェイク・リクターという、ハンサムでリッチな銀行マンでした。
やがて、イーディスとジェイクは結婚するのですが、
アリスは次第に、継父のジェイクに心を惹かれていきます。
一方のジェイクも、アル中であるイーディスを見捨てることなく結婚生活を続けるのですが、
ジェイクの本当の狙いは、美少女のアリスでした。

アリスが語らないことは文面

物語の進展は非常にゆっくりとしています。
トリッキーな展開や、奇想天外なアイデア、唸るような綿密なプロット、などはありません。
ハラハラドキドキ、という要素もほとんどなく、物語は、静かに、淡々と進んでいきます。
そのかわり、ケネウィックという架空の町の描写が、とても念入りにされています。
本作を読んでいると、少し寂しげで、それでいて風光明媚な東海岸の町ケネウィックが、
ありありと目に浮かんできます。
私は、ケネウィックは実在の町かと思ったほどです。

本作のもう一つの魅力は、アリス・アッカーソン(アリス・モス)の描写です。
エロティックで、謎めいていて、まるでつかみどころない女性であるアリス。
父の再婚相手であるこの女性をまえにしたハリーの煩悶が、
現代の物語の中で、際立った描写となっています。

○ 東京創元社 アリスが語らないことは ピーター・スワンソン ~

過去に物語では、思春期のアリスの視点で描かれていて、
アリスが社会や世界、自分を取り巻く人間ををどう捉えているかが、
理解できるようになっています。

ハリーが感じるアリスの美しさと、
ジェイクの視点から見たアリスの美しさの差のようなものも、興味深いです。

創元文庫裏側

この作品はミステリーで、連続殺人を扱っていますが、
静かで淡々とした展開と、町の描写が魅力かなと思います。
読んでいると、ビルとアリスが住んでいた「グレイレディ」という屋敷が、
ありありと目に浮かんできます。
ただ、帯にあるような、とてつもない衝撃、という感じではないかなと思います。
(最近の本の帯は、やたらと大げさな表現が多いように思います)

以前に読んだ、ピエール・ルメートルの「監禁面接」のような、
痛烈な面白さはないのですが、この作家なりの魅力が溢れた作品なのかなと思います。
創元推理文庫はお値段がちょっと高めなのですが、今度は、
そしてミランダを殺す、を読んでみたいな思っています。
(読みたいものがいっぱいで、困ってしまいます)


コチラをクリックしてくださるとうれしく思います。
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