ケイトが恐れるすべて表紙

さて、今回は久しぶりにブックレビューをアップしてみたいと思います。
取り上げるのは、ピーター・スワンソンの「ケイトが恐れるすべて」です。
本ブログでピーター・スワンソンを取り上げるのは、
アリスが語らないことは、そしてミランダを殺す、に続き、3回目となります。
そういえば、最近、だからダスティンは死んだ、が刊行されましたね。
こちらも、また近いうちに読んでみたいと思っています。
(それにしても、東京創元社の翻訳ミステリって、
文庫でも、ちょっとお値段が高めのように思うんですが……)

というわけで、本作も物語の舞台は、ボストンになります。
スワンソンは、このボストンを含む、ニューイングランド地方を、
私が知る限り、必ず物語の舞台にしています。
今回も、ボストンのシーン描写は巧みになされています。
作者にとって、思い入れのある土地なのでしょう。

紙面01

さて、本作のストーリーですが、
主人公はケイト・プリディーというイギリス人の若い女性です。
ロンドンに住むケイトは、ボストンに住む又従兄弟のコービン・デルから、
期間限定で、互いの住まいを交換しないか、との誘いを受けます。
コービンはおよそ半年間、ロンドンに出張することとなり、
ロンドンでの住まいを探しています。
また、ケイトは、ボストンでグラフィックデザインの勉強をすることを望んでいます。
事情があって、自宅に引き篭りがちなケイトは、自らを変える意味でも、
イギリスを離れ、ボストンでの暮らしをするべきだとも望んでもいました。
こうして、互いの住まいを交換する話は成立し、
ケイトはボストンのベリーストリート101番地にあるコービンのアパートメントに入ります。
時を同じくして、コービンは、ロンドンにあるケイトのアパートメントに向かいました。

ケイトが住むことになったコービンのアパートメントは、とても豪華でした。
建物はU字型で、中央にはイタリア風の中庭があり、ドアマンも常にいます。
しかも、コービンの部屋は、そのなかで最も広く、部屋数も多い豪華なものでした。

が、部屋へと案内されたその時、
ケイトは、隣の部屋のドアを激しくノックする自分と同じ年頃の若い女性がに気づきます。
彼女は、隣の3C号室に住む、オードリー・マーシャルという女性の、友人だそうです。
オードリーと連絡が取れなくなり、心配になって、部屋を訪ねたのだといいます。

その事実に、ケイトは、突然大きな不安を感じます。
オードリーは室内でひとり死んでいるのではないか……。
常に最悪の想像を巡らすケイトは、勝手にそう確信してしまいます。
ところが、翌日になると、、ケイトのその予想は、図らずも的中してしまいます。
オードリー・マーシャルは遺体で発見されたのです。

しかも、ケイトが住むことになったコービンの部屋からは、
オードリーの部屋の合鍵が発見されます。
どうやらコービンは、オードリーの部屋に通っていたらしい。
しかも、合鍵まで持っているということは、恋人といってもいい関係だったと思われます。
ところが、ロンドンのコービンに問い合わせると、
彼は、オードリーと面識があるとはいうものの、
関係があったことを、なぜか頑として認めません。

さらに、オードリーの部屋の真向かいの棟の住む、アランという青年が、
オードリーの部屋をずっと覗き見していたことも判明します。

オードリーを殺したのは、又従兄弟のコービンなのか、
それとも覗き見をしていたアランなのか。

過去に交際相手がストーカーと化し、監禁された経験があるケイトは、
さらなる激しい不安に掻き立てられます。
そんなケイトのもとに、オードリーのかつての恋人だったという、
ジャック・ルドヴィコなる赤髪の男が現れます。
この男は、オードリーとコービンが恋人同士であり、
コービンはオードリーを殺した後、ロンドンに向かったということを強く示唆します。

であれば、やはりコービンが犯人なのか……。
やがて、コービンの過去がつまびらかになると、そこには衝撃の事実があるのですが……。

ケイトが恐れるすべて裏表紙

物語は、そしてミランダと同様、複数の人物の視点から描かれ、
その書き分けは各章ごとになされています。
翻訳物の小説では、視点人物が、ときに章をまたがず変わってしまうこともあり、
読み手を混乱させることがあるのですが、そういったことは、
スワンソンの作品ではありません。
ですので、安心(?)して読めるかと思います。

○ ケイトが恐れるすべて ピーター・スワンソン。創元推理文庫サイト ~

また、物語のなかでの経過時間は1週間程度と極めて短いものとなっています。
(過去の回想場面は15年前から始まりますが)
同じシーンが、視点者を変えて語られ、事の真相が読者にわかる構成になっています。
最終的には、この視点人物の中に、
犯人が加わり、犯行の詳細が判明するようになっています。

私は、スワンソン作品の魅力は、女性の登場人物の造形にあると思っているのですが、
今回の物語の主人公、ケイトも、その人となりに惹かれます。
常に最悪の想像をし、しかも心のうちから響いてくる声に悩まされているケイト、
この物語は、基本的に、殺人事件の謎を追うストーリーですが、
同時に、激しいトラウマを抱えるケイトが、新たな自分を取り戻し、
再出発をするストーリーにもなっています。

紙面02

また、亡くなったオードリーについても、覗きをするアラン側からの彼女の描写や、
本人がつけていた日記などから、とてもうまく描写されていると感じました。

コービンのアパートメントの描写もとても丹念で、
まるで映画を見ているように、しっかりと情景が浮かんできます。
的確にシーンが思い浮かぶかどうかで、その作家が好きになるかどうかが、
決まるように思います。

スワンソンを読んだのはこれで三作目なのですが、
私としては、これがいちばん好きかもしれません。
なんといっても、ラストが……。

スワンソンは2014年デビューの作家ですので、まだそれほど作品が多くないのですが、
今後も、新刊が出たら、読んでみたいと思っています。


コチラをクリックしてくださるとうれしく思います。
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